「石川五右衛門(いしかわ ごえもん)」や「近松門左衛門(ちかまつ もんざえもん)」のように、昔の人の名前には「右衛門」「左衛門」がよく登場します。
ところが、あらためて見ると疑問も浮かびます。
- 左衛門と右衛門は何が違うのか
- 「衛門」とは何を意味するのか
- なぜ役職のような言葉が人名になったのか
- 左衛門と右衛門では、どちらが上なのか
先に結論をお伝えすると、左衛門と右衛門は、宮城の門を警備した「左衛門府」と「右衛門府」という官司の名称に由来します。
もともとは左右に分かれた宮廷警備の組織名でしたが、後に官職名に由来する通称として使われ、武士や庶民の名前にも広がっていきました。
また、左衛門と右衛門の違いは、基本的には所属する官司が左か右かという違いです。左衛門だから右衛門より必ず偉い、という意味ではありません。

この記事の結論
- 左衛門は左衛門府に由来する言葉
- 右衛門は右衛門府に由来する言葉
- どちらも宮城の門の警備などを担当した官司
- 左右の違いはあるが、単純な上下関係ではない
- 後世には人名や通称の一部として広く使われた
「左衛門」と「右衛門」の違いとは?
「左衛門」と「右衛門」の違いは、もともと所属していた官司が左衛門府か右衛門府かという点です。
左衛門府と右衛門府は、宮城の門の警備や開閉、行幸の際の警護などを担った官司でした。
| 比較項目 | 左衛門 | 右衛門 |
|---|---|---|
| 読み方 | さえもん | うえもん・えもん |
| 由来 | 左衛門府 | 右衛門府 |
| 主な役割 | 宮城の門の警備・開閉など | 宮城の門の警備・開閉など |
| 左右の違い | 左側の官司 | 右側の官司 |
| 上下関係 | 左右の同じ役職であれば、単純に左が上とは限らない | |
| 後世の使われ方 | 人名や通称の一部 | 人名や通称の一部 |
現代風にいえば、同じ警備組織が左右に分かれていたようなものです。
ただし、「左衛門府は東門だけ」「右衛門府は西門だけ」を警備していたと単純に分けられるものではありません。
どちらも宮城の諸門の警備や開閉に関わる官司であり、左右に分かれた組織として理解するのが適切です。
違いは左右に分かれた官司の名称
古代の朝廷では、同じような役割を持つ組織を「左」と「右」に分けることがありました。
左衛門府と右衛門府も、そのような左右一対の官司です。
それぞれには、次のような官職が置かれていました。
- 督(かみ)
- 佐(すけ)
- 大尉・少尉(じょう)
- 大志・少志(さかん)
そのため、正式には「左衛門」「右衛門」だけが一つの役職名だったというより、左衛門府・右衛門府という官司名の一部として使われていました。
例えば、
- 左衛門督
- 左衛門佐
- 右衛門尉
- 右衛門志
といった官職名がありました。
左衛門の方が右衛門より偉いわけではない
「左大臣」と「右大臣」では左大臣の方が上位とされるため、「左衛門も右衛門より上なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、すべての左右の官司で、左側が右側より自動的に上位になるわけではありません。
左衛門府と右衛門府には、それぞれ同じように督・佐・尉・志などの官職が置かれていました。
したがって、比較するなら、
- 左衛門督と右衛門督
- 左衛門佐と右衛門佐
- 左衛門尉と右衛門尉
のように、同じ役職同士で考える必要があります。
「左衛門」という名前だから「右衛門」より身分が高い、という意味ではありません。
「衛門」とは何のこと?
「衛門」とは、もともと宮城の門を守ることや、その警備を担当した官司に関係する言葉です。
「衛」には守るという意味があり、「門」は宮城の出入り口を表します。
そのため「衛門」は、文字どおり考えると、門を守るという意味につながります。
| 漢字 | 意味 |
|---|---|
| 衛 | 守る、警護する |
| 門 | 宮城や建物の出入り口 |
| 衛門 | 門の警護や、その官司に関係する言葉 |
ただし、後世の人名に使われた「衛門」は、必ずしも本人が門番だったことを意味しません。
名前として定着した後は、官職名に由来する古風で格式ある響きを持つ通称として使われるようになりました。
現在では「〇〇衛門」という名前から「えもん」だけが独立した言葉のように見えますが、本来は「衛門」という官職・官司に由来する言葉です。そのため、「エ門」という漢字が存在するわけではありません。
宮城の門を警備した衛門府に由来する
左衛門府・右衛門府は、宮城の門の警備や開閉、出入りする人の監察などに関わりました。
また、天皇の行幸に供奉するなど、宮廷の警護に関係する役割も担っていました。
現代の言葉に置き換えるなら、「宮廷の警備組織」に近い存在です。
ただし、単なる門番だけではなく、役所として組織され、複数の官職を持つ官司でした。
そのため、「衛門=門番の名前」とだけ覚えるよりも、宮廷警備に関わる官司や官職に由来する言葉と理解した方が正確です。
なぜ「左衛門」「右衛門」が人名になったの?
左衛門・右衛門は、もともと官司や官職に関係する言葉でした。
それが人名として広まった背景には、官職名に由来する通称の文化があります。
武士は、実名とは別に、日常で呼ばれる通称を持つことがありました。
その通称に、
- 左衛門
- 右衛門
- 兵衛
- 主水
- 内蔵助
など、官職名に由来する言葉が使われるようになります。
このような官職風の呼び名は、一般に百官名(ひゃっかんな)と呼ばれます。
官職名に由来する「百官名」
百官名とは、朝廷の官職名に由来する通称です。
実際にその官職に就いている場合もありましたが、時代が進むにつれて、正式な任官とは関係なく名乗られる例も増えました。
例えば、
- 〇〇左衛門
- 〇〇右衛門
- 〇〇兵衛
- 〇〇之助
といった名前です。
これらは、現代の名字と名前だけでは表しにくい、家柄や立場、呼び名としての役割も持っていました。
やがて官職に由来する格式ある響きが好まれ、武士だけでなく、農民や商人など庶民の名前にも広がっていきます。
武士から庶民の名前へ広がった
鎌倉・室町時代以降、官職名に由来する通称は武士の間で広く使われるようになりました。
さらに江戸時代になると、「〇〇右衛門」「〇〇左衛門」「〇〇兵衛」といった名前は、庶民の間でも珍しくないものになります。
ただし、すべての人が格式を示すためだけに名乗ったわけではありません。
家に代々伝わる名前として受け継いだ場合もあれば、地域や家の慣習によって使われた場合もあります。
そのため、
- 左衛門を名乗る人は左衛門府に勤めていた
- 右衛門を名乗る人は右衛門府に関係していた
とは限りません。
後世の「左衛門」「右衛門」は、もとの官職名から離れ、人名の一部として定着した呼び方と考えると分かりやすいでしょう。
人名の「左衛門」と「右衛門」に意味の違いはある?
ここまで見てきたように、「左衛門」と「右衛門」は、それぞれ左衛門府・右衛門府に由来する言葉です。
では、人名として使われる場合にも意味の違いがあるのでしょうか。
結論から言えば、後世の人名に使われる「左衛門」と「右衛門」に、身分や性格などの明確な違いはありません。
例えば、
- 左衛門だから身分が高い
- 右衛門だから武芸に優れている
- 左衛門は武士、右衛門は庶民
といった決まりはありません。
もともとは官司に由来する名称でしたが、時代が下るにつれて通称や人名として定着したため、名前だけでその人の立場や役職を判断することはできないのです。
「左衛門」と「右衛門」の読み方
「左衛門」と「右衛門」は、歴史上の人物名になると読み方に迷うことがあります。
基本的な読み方を整理すると、次のようになります。
| 表記 | 主な読み方 | 例 |
|---|---|---|
| 左衛門 | さえもん | 左衛門府 |
| 左衛門(人名) | ざえもん・さえもん | 門左衛門、藤左衛門 |
| 右衛門 | うえもん・えもん | 右衛門府 |
| 右衛門(人名) | えもん・ごえもん など | 石川五右衛門 |
人名では昔からの読み方が受け継がれているため、辞書や資料で確認するのが確実です。
「左衛門」はなぜ「ざえもん」と読むことがある?
「左衛門」は、本来は「さえもん」と読みます。
しかし、人名では「門左衛門(もんざえもん)」や「藤左衛門(とうざえもん)」のように、「ざえもん」と濁って読む例が多く見られます。
これは、日本語の連濁(れんだく)と呼ばれる現象によるものです。
複数の語がつながると、後ろの語頭が濁って発音されることがあり、「さえもん」が「ざえもん」へ変化したと考えると理解しやすいでしょう。
ただし、人名の読み方には慣用も多いため、すべてが機械的に連濁だけで説明できるわけではありません。
なぜ「五右衛門」は「ごえもん」と読むの?
「石川五右衛門」の「五右衛門」は、「五(ご)」の後に「右衛門(えもん)」が続く名前です。
人名では「右衛門」を「えもん」と読む例があり、「五」と続けて「ごえもん」と読みます。
なお、「五」が五男を意味するなど、名前の由来については人物や家ごとに異なります。石川五右衛門の名についても、漢字だけから由来を断定することはできません。
有名な「左衛門」「右衛門」の名前
「左衛門」「右衛門」を含む名前には、歴史上よく知られた人物が数多くいます。
| 名前 | 読み方 | 概要 |
|---|---|---|
| 石川五右衛門 | いしかわ ごえもん | 安土桃山時代の人物として伝わり、歌舞伎や講談でも有名です。 |
| 近松門左衛門 | ちかまつ もんざえもん | 『曽根崎心中』などで知られる江戸時代の浄瑠璃・歌舞伎作者です。 |
| 鳥居強右衛門 | とりい すねえもん | 長篠の戦いにまつわる逸話で知られる戦国時代の武士です。 |
このように、「右衛門」「左衛門」は単独で使われるだけでなく、「五右衛門」「門左衛門」「強右衛門」のように、別の字と組み合わされた通称としても使われました。
「左衛門」と「右衛門」に関するよくある質問(Q&A)
Q. 左衛門と右衛門は何が違うのですか?
A. 左衛門府と右衛門府という、左右に分かれた宮廷警備の官司に由来する点が違います。
Q. 左衛門の方が右衛門より偉いのですか?
A. 一般にそのようには言えません。左右の官司に置かれた同じ官職は、それぞれ対応する役割を担っていました。
Q. 「衛門」とはどういう意味ですか?
A. 「衛」は守る、「門」は宮城の門を表します。宮廷の門の警備に関係する官司や官職に由来する言葉です。
Q. 「エ門」という漢字があるのですか?
A. 「エ門」という漢字表記があるわけではありません。「えもん」は「衛門」の読み方です。「〇〇衛門」という名前では、衛門を「えもん」と読むことがあります。
Q. 人名の左衛門と右衛門には身分の違いがありますか?
A. 基本的にはありません。もともとの由来は左衛門府と右衛門府ですが、後世に人名として定着してからは、名前だけで身分や役職を判断することはできません。
Q. 「左衛門」は「さえもん」と「ざえもん」のどちらが正しいですか?
A. 官司名としては「さえもん」、人名では「ざえもん」と読む例が多く見られます。
Q. 「右衛門」はなぜ「えもん」と読むのですか?
A. 人名では古くから「えもん」と読む慣用があり、「石川五右衛門(ごえもん)」などが代表例です。
Q. 今でも「左衛門」「右衛門」という名前はありますか?
A. 現代では人名としては珍しくなりましたが、屋号や老舗の商号、歴史的な人物名などで見ることがあります。
まとめ
「左衛門」と「右衛門」は、宮廷の門を警備した官司に由来する歴史ある言葉です。
| 項目 | 左衛門 | 右衛門 |
|---|---|---|
| 由来 | 左衛門府 | 右衛門府 |
| 役割 | 宮城の門の警備など | 宮城の門の警備など |
| 後世の使われ方 | 人名・通称 | 人名・通称 |
現在では、「左衛門」と「右衛門」は主に歴史上の人物名や屋号などで見かける言葉になりました。
しかし、その由来を知ると、昔の官職や日本の名前の文化とのつながりが見えてきます。
歴史小説や時代劇で「○○左衛門」「○○右衛門」という名前を見かけたときは、宮廷の官司に由来する呼び名であることを思い出すと、より深く楽しめるでしょう。
私の田舎では、今でも「右衛門」に由来する屋号が残っています。
昔、自動車ディーラーで働いていたころ、「五右衛門さん」とトヨタの5Mエンジンをめぐって、思わず笑ってしまう出来事がありました。


