「会議を30分繰り上げる」「締切を1日繰り下げる」。
そんな表現を聞いたとき、
“どっちが早くなって、どっちが遅くなるんだっけ…?”
と迷った経験はありませんか?
実はこの二つの言葉、
時間・数値・順番…など、対象によって意味の方向が変わるため、
混乱しやすい日本語の代表例です。
今回は「繰り上げる」と「繰り下げる」の違いを、
「時間」「順位」「支払い」「予定」などの場面ごとに深掘りしていきます。
「繰り上げる」:基準より“前へ・上へ”動かすこと
「繰り上げる」は、
予定・数値・順番を今より前(または上)に動かすことです。
時間の例(具体的な時刻)
例:会議を10分繰り上げる
-
元の開始時刻:10時00分
-
10分前倒し → 9時50分開始になる
例:授業を30分繰り上げる
-
元の開始時刻:13時00分
-
30分早める → 12時30分開始
順番の例(具体的な番号)
例:発表の順番を繰り上げる
-
当初の順番:5番目
-
1つ早める → 4番目になる
例:診察の順番を繰り上げる
-
当初:10番目
-
2つ繰り上げ → 8番目に呼ばれる
数値の例
例:8.4 を四捨五入して 10 に繰り上げる
-
9 ではなく、10 に上げる
(※「切り上げ」のイメージに近い)
例:予定販売数 93 個 → 100 個に繰り上げて見積もる
-
数値を大きくする方向へ動かす
支払い・締切の例(具体的な日付)
例:振込日を 3日繰り上げる
-
元の予定日:5月10日
-
3日前倒し → 5月7日 に支払う
例:締切を 1日繰り上げる
-
元の締切:12月15日
-
前倒し → 12月14日 に提出
✔ まとめると
繰り上げる=前へ・上へ(早く/多く/順位を上へ)
「繰り下げる」:基準より“後へ・下へ”動かすこと
「繰り下げる」は、
予定・数値・順番を今より後(または下)に動かすことです。
時間の例(具体的な時刻)
例:会議を30分繰り下げる
-
元の開始時刻:14時00分
-
30分遅らせる → 14時30分開始
例:開始時刻を1時間繰り下げる
-
元:9時00分
-
→ 10時00分 に変更
順番の例(具体的な番号)
例:発表の順番を繰り下げる
-
元の予定:3番目
-
2つ繰り下げ → 5番目へ
例:面接順を繰り下げる
-
元:1番目
-
→ 3番目に変更(後回し)
数値の例(具体的な数字)
例:見込み売上 15万円 → 1万円繰り下げて 14万円に
-
数値を低めに見積もる方向
例:12.8 を「繰り下げ」処理して 12 にする
-
数字を少なくする
支払い・締切の例(具体的な日付)
例:支払いを翌月へ繰り下げる
-
元の支払日:6月25日
-
繰り下げ → 7月25日 に延期
例:締切を 2日繰り下げる
-
元の締切:3月10日
-
→ 3月12日 に変更(後ろ倒し)
✔ まとめると
繰り下げる=後へ・下へ(遅く/少なく/順位を下へ)
方向のイメージ
| 用途 | 繰り上げる | 繰り下げる |
|---|---|---|
| 時間 | 早くする(前倒し) | 遅くする(後ろ倒し) |
| 順番 | 前へ移動 | 後ろへ移動 |
| 数値 | 上へ(多く) | 下へ(少なく) |
| 支払い | 早める | 遅らせる |

実は“上・下”よりも「基準からどう動くか」が重要
迷いやすいのは、
「上」と「下」という漢字だけに引っ張られるから。
しかし、日本語の動きはこうです👇
「 繰り上げる」
→ 基準より前へ(時間)
→ 基準より上へ(順位・数値)
「 繰り下げる」
→ 基準より後へ(時間)
→ 基準より下へ(順位・数値)
つまり、上・下は比喩であり、
大事なのは“今の基準よりどちらに動かすか”。
もっと身近な例で比較してみました
| シーン | 繰り上げる | 繰り下げる |
|---|---|---|
| 時間 | 早くする | 遅くする |
| 発表順 | 早める | 遅らせる |
| 年金支給 | 受給開始を早める | 受給開始を遅らせる |
| 確定申告 | 提出を前倒し | 提出を後ろ倒し |
| 小数点 | 数字を上に丸める | 数字を下に丸める |
| セール開始 | 前倒しで実施 | 後ろにずらして開始 |
「繰り上げ/繰り下げ」以外にもある似た表現
早める/遅らせる
→ もっと直感的で誤解が少ない。ビジネスでもよく使われる。
前倒し/後ろ倒し
→ スケジュール変更ではこちらの方が正確。
アップ/ダウン
→ 外来語で感覚的に掴みやすい(例:年齢引き上げ/引き下げ)
「繰り◯げる」は少し硬い表現なので、
人によっては誤解が生じないように
「早めます」「後ろにずらします」など補足することもあります。
まとめ:基準より“どちらへ動くか”で考えると迷わない
-
繰り上げる=前/上へ移動
-
繰り下げる=後/下へ移動
時間でも数字でも、
“基準となるポイントを決めて、そこからどう動かすか”を意識すると
迷わずに使い分けることができます。
日本語は比喩的に上下を使うため、
意味が混乱しやすい表現ですが、
一度整理すれば実はとてもシンプルです。

