「いたします」と「致します」、これらの語句はしばしば混同されがちですが、正しい使い方があります。
多くの人が無意識のうちに「よろしくお願い致します」と使用していますが、実はこれは誤用です。
その理由が分からなければ、正しく使い分けることは難しいでしょう。
この記事では、「いたします」と「致します」の正確な違いとその使用法について詳細に説明していきます。
「いたします」と「致します」の大きな違い
「いたします」と「致します」は使い方と意味にに大きな違いがあります。
使い方の違い
「いたします」は動詞の直後に配置し、「〇〇いたします」という形で使用します。これは補助動詞として機能し、前に来る動詞の表現を丁寧にします。
一方で、「致します」は「〇〇が致します」という形で使われることが多く、これは本動詞として機能します。
専門的な用語で説明すると、「いたします」は補助動詞、つまり動詞を補う形で使われ、主に丁寧な表現を加える役割を持ちます。例えば、「お願いいたします」は「お願いする」をより礼儀正しく表現しています。
対照的に、「致します」は単独で使われることが一般的で、動詞の直前には他の動詞が来ません。
補助動詞は通常、ひらがなで書かれるべきです。「いたします」も同様で、特に公式な文書においてこのルールは重要です。
意味の違い
「いたします」と「致します」は、意味においても異なります。
「いたします」は、直前の動詞に付けて使用することで、その動詞をより丁寧な表現に変える助動詞です。この表現自体に独立した意味はありませんが、文脈内で動詞を礼儀正しく表現する役割を持ちます。
一方、「致します」は「する」という動詞の丁寧語です。このため、「致します」自体には「行う」という明確な意味があり、礼儀を示す表現として単独で使用されます。
これらの違いを理解することで、日常のビジネス文書や会話の中で適切な言葉選びが可能になります。次の見出しでは、これらの用法をさらに詳しく掘り下げていきます。
「いたします」は、直前の動詞を補う形で使用され、その動詞を礼儀正しく表現する補助動詞です。この表現は、その単語単体で使われることはなく、常に動詞と組み合わせて丁寧な表現を目指します。
「いたします」の意味と用法
「いたします」は、文中で直前の動詞に接続し、その行動をより礼儀正しく、敬意を表して伝えるために用います。例えば、「確認する」を「確認いたします」と表現することで、聞き手に対する敬意が増します。
次に、この用法をさらに理解するために具体的な例文を見ていきましょう。
「いたします」の適切な使い方と具体例
「いたします」は、動詞の後に付け加えることで、表現をより丁寧にする補助動詞です。特にビジネスの文脈など、礼儀正しい言葉遣いが求められる場面で頻繁に使われます。
使用法
「いたします」は以下のような形式で使われることが一般的です。
- 〇〇(漢字の熟語)いたします
- お〇〇いたします
- ご〇〇いたします
具体的な例文
- 先日の件について、ご検討よろしくお願いいたします。
- お助けいただき、誠に感謝いたします。
- あなたの旅には私がお供いたします。
- 今すぐ修正して再提出いたします。
- 案件が終了次第、ご連絡いたします。
これらの例文からわかるように、「いたします」は行動や意向を表す自分の動詞に対して使用され、相手の行動に対して使うことは適切ではありません(例えば、「ご検討いたしますようお願いします」は不適切)。この点に注意しながら、礼儀正しいコミュニケーションを心がけましょう。
「致します」の具体的な使用例
「致します」は、単独で「する」の丁寧語として使用され、特に「〇〇が致します」「〇〇で致します」といった表現で活用されます。この形式は、行動や作用の主体が明確な文脈で用いられることが一般的です。
具体的な例文
- 遠くからお祭りの音が聞こえてきます。→ 遠くからお祭りの音が聞こえて致します。
- 後の処理はこちらで行います。→ 後の処理はこちらで致します。
- なんだか胸騒ぎがします。→ なんだか胸騒ぎが致します。
これらの例文では、「致します」がそれぞれの文の中で主要な動詞として機能しており、事象や行動をより礼儀正しく表現しています。このように、「致します」を使用する際は、文の構造に気を付けながら、適切に表現を丁寧にすることが重要です。
選択で迷った場合
「いたします」と「致します」を使い分けることに迷う場合、一般的には「いたします」を選ぶ方が安全です。これは、「いたします」を誤って「致します」の文脈で使っても、大きな間違いにはなりにくいためです。
たとえば、「胸騒ぎが致します」という表現を「胸騒ぎがいたします」と書いても、誤用とは見なされないことが多いです。しかし、反対に、「ご連絡いたします」というべきところを「ご連絡致します」と書くと、これは明確に間違いとされるため、避けるべきです。
これは、補助動詞「いたします」が通常ひらがなで書かれるため、文脈上の正確さと一貫性を保ちやすいからです。したがって、特に公式な文書やフォーマルなコミュニケーションで安全を求める場合には、「いたします」を使用することをお勧めします。
「致す」とその用法
「致す」という表現は、「致します」のもととなる語で、主に二つの意味を持ちます。
「致す」の意味
- 「する」の丁寧な表現:これは「致します」と直接的に関連し、「行う」や「実行する」といった行動を礼儀正しく表現する際に使われます。
- 引き起こす、到達させる:この意味は「致す」特有のもので、何かを引き起こしたり、ある状態に到達させるという動作を示します。この意味合いは「致します」では通常表現されません。
「致す」の第二の意味は、特定の状況や成果を引き起こす力があるというニュアンスを持ち、より積極的なアクションを示唆する場合に用いられることがあります。この用法は、文脈によっては非常に強い意志や決意を表現するのに適しています。
「致します」は一般に丁寧語として広く使われますが、「致す」に含まれるより豊かな意味を理解することは、より繊細で適切な日本語表現を身につける上で重要です。
「致す」の特殊な用法と例文
「致す」は、「する」の丁寧形として「致します」と広く使用されますが、「引き起こす、到達させる」という意味で使う場合の用法にも注意が必要です。この用法は、特定の状況や感情を表現する際に用いられます。
例文とその解説
- 本プロジェクトの失敗は私の不徳の致すところです。
- この例文では、「致す」が「引き起こす」の意味で使われており、自分の不足している道徳心が悪い結果を招いたことを表しています。
- 自分のことで手一杯で、部下に思いを致すことができなかった。
- ここでは、「思いを致す」が用いられており、心を向ける、気持ちを寄せるという意味で使われています。
- 10年前から付き合いがある親友との思い出に思いを致す。
- 同様に、「思いを致す」は、時間的、空間的に遠く離れた出来事や人に対して心を向ける表現です。
これらの用法は、「致す」が持つ「何かを引き起こす」や「特定の対象に心を向ける」という意味の豊かさを示しており、日本語の繊細な表現力を利用する際に非常に有効です。
「いたします」と他の敬語表現の比較
「いたします」の適切な使用法を理解した後、他の一般的な敬語表現との違いも明確にしてみましょう。以下では、「させていただきます」、「申し上げます」、「なさいますか」といった表現を取り上げ、それぞれの使い方とニュアンスの違いを詳しく解説します。
「させていただきます」
この表現は、許可を求める際や、何かをすることに対して相手に感謝を示す意を込めて使用します。例えば、相手の了解を得て何か行動を起こす場合に「〇〇させていただきます」と表現します。
「申し上げます」
「申し上げます」は、意見や考えを表す際に使われる敬語です。情報の提供や意見の表明に際して、尊敬の意を示しながら述べるために用います。
「なさいますか」
「なさいますか」は、相手の行為について問いかけるときに使用する敬語です。これは、相手の意志や計画を尊重する際に使われ、柔らかく尋ねる表現として機能します。
これらの表現を「いたします」と比較すると、「いたします」は基本的に動作や行動を丁寧に伝える際に用いられる補助動詞であり、それぞれの敬語が異なる文脈や目的で使われることが分かります。これにより、日本語の敬語の多様性と適切な使い分けが理解できるでしょう。
「いたします」と「させていただきます」の違いと使い分け
「いたします」と「させていただきます」はどちらも謙譲語として自分の行為に関する表現に使われますが、それぞれに特徴的な違いがあります。
違いの解説
- いたします:
- これは自分のある行動を単純に宣言する表現で、特に相手の許可を求めるニュアンスは含まれていません。例えば、「会議に出席いたします」と言う場合、単に自分が会議に出席することを丁寧に伝えています。
- させていただきます:
- この表現は、自分が行う行動が相手の許可や承認を得て行われることを前提としています。したがって、「会議に出席させていただきます」と言うときは、その出席が許可されていることが前提となり、より謙虚な印象を与えます。
使用上の注意
「させていただきます」は、相手によっては過度な敬語と受け取られる可能性があります。特に、求められていない行動を前提とすると、不必要に謙虚すぎると感じさせることがあります。そのため、この表現を使う際は、文脈や相手の期待をよく考慮することが重要です。
これらの表現を適切に使い分けることで、コミュニケーションの精度を高め、相手に敬意を示すことができます。
「いたします」と「申し上げます」の使い分けとそのニュアンス
「いたします」と「申し上げます」は、それぞれ異なる意味を持つ重要な敬語表現です。適切な使い分けは、敬意を表す上で非常に重要です。
違いの概要
- いたします:
- 「する」の謙譲語であり、自分が行う行動について話す際に使われます。これは実際の行動を含む表現で、何かを「行う」という意味が含まれています。
- 申し上げます:
- 「言う」の謙譲語で、主に意見や感謝、謝罪などの言葉を伝える際に使用されます。これは発言や表明に限定される表現です。
使用例とその文脈
- お願いいたします:
- これは依頼や要求をする場面で使われる表現です。具体的な行動を期待する際に用いられ、「相手に何かをしてもらいたい」というニュアンスがあります。
- お願い申し上げます:
- お礼やお詫びなど、より控えめな意図を持つ場面で使われる表現です。こちらは実際の依頼よりも、表現自体に重きを置いており、「ただ伝える」という形が強調されます。
「お願い申し上げます」は控えめで礼儀正しい表現として、特に感謝や謝罪の文脈で効果的です。対照的に、「お願いいたします」は依頼や具体的な行動を求める状況で適しています。これらの表現を文脈に応じて使い分けることで、コミュニケーションの質を向上させることができます。
「いたしますか」と「なさいますか」の違いと使い方
「いたしますか」と「なさいますか」は、質問の形式で使われる際に異なる主体に焦点を当てる敬語表現です。これらの使い分けは、誰が行動の主体であるかを明確にするために重要です。
違いの詳細
- いたしますか:
- この表現は自分自身の行動や意志を問う場合に使用します。ここでの「いたしますか」は、自分が何かを行うかどうかを他の人に尋ねる際に使われる表現です。例えば、「送付いたしますか?」という場合、話し手が送付を行う意向があるかどうかを問いかけています。
- なさいますか:
- 対照的に「なさいますか」は、相手の行動や意志について問う際に使用されます。これは相手が何かを行うかどうかを尋ねる表現で、相手の行為や選択に関心があるときに適しています。例えば、「送付なさいますか?」と尋ねるときは、相手に送付の行為を行うかどうかを聞いていることになります。
使用例
- 自分が主体の場合: 「この書類を、明日までに送付いたしますか?」
- 相手が主体の場合: 「この書類を、明日までに送付なさいますか?」
これらの表現を適切に使い分けることで、会話の中で自分と相手の行動の主体を明確に区別し、相手に敬意を示す効果的なコミュニケーションが可能となります。
まとめ
この記事では、「いたします」と「致します」の違いと、これらの表現を適切に使い分ける方法について詳しく解説しました。これらの敬語は日本語のビジネスコミュニケーションや公式な場で頻繁に使用されるため、それぞれの適切な使用法を理解することが重要です。
- 「いたします」は補助動詞として用いられ、「する」を丁寧に表現します。これは自分の行動や意志を敬意をもって伝える際に使用します。
- 「致します」は本動詞として使用され、「する」の丁寧語です。主に自立した行動や意志を礼儀正しく表す際に用います。
また、「いたします」と他の敬語表現との比較を通じて、それぞれの表現が持つニュアンスの違いと文脈に応じた使い方も学びました。具体的には、「させていただきます」や「申し上げます」といった表現がどのように異なるか、そしていつどのように使うかを明確にしました。
この知識を活用して、より洗練されたコミュニケーションを目指しましょう。日常的なビジネスシーンでの言葉遣いが、相手に対する敬意として正しく伝わるよう心がけることが大切です。

「致します」は「いたします」」を漢字にしただけだと思っていましたが、全然意味が違ってたんですね! こちらはどうでしょう?