本記事では、「とにかく」と「とにもかくにも」の違いを詳しく解説します。
どちらも“どうあれ”“いずれにせよ”という意味を持ち、何かを強調したり話を進めるときに使われますが、
実際には勢い・口調・使われる文体に微妙な差があります。
「とにかく」は現代的で行動的な印象、
「とにもかくにも」は少し古風で、気持ちの整理をつけるような響きがあります。
日常会話・スピーチ・文章での使い分けを整理しながら、
日本語特有の“勢いのニュアンス”を深掘りしていきましょう。
「とにかく」とは?──勢いと行動を促す言葉
「とにかく」は、日常でもっともよく使われる副詞のひとつです。
意味は、「何はさておき」「まず」「いずれにせよ」。
迷いや条件を脇に置いて、“行動や結論を優先する”ときに使われます。
🔹 コアイメージ
「とにかく」は、感情よりも行動の勢いに重きがある言葉。
話をまとめたり、迷いを断ち切るときに使われます。
たとえば——
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「とにかくやってみよう!」
 - 
「とにかく急がないと間に合わない」
 - 
「とにかく彼に連絡しておいて」
 
いずれも、“細かいことは後でいいから、今はこれを優先しよう”という、
行動指向のテンションを持っています。
🔹 由来
「とにかく」は、「と(外に)」「にかく(掻く)」が組み合わさった語。
もともとは「外に掻き出す=いろいろ脇に置く」という意味から、
「細かいことを抜きにして」「まずは一歩」というニュアンスが生まれました。
💬 使われ方の特徴
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話し言葉で多用される(若者言葉にも自然)
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ビジネス文書より、会話・スピーチ・SNSなどに多い
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感情を交えた“勢い”を表現しやすい
 
👉 「とにかく」は、行動に移すときのスイッチのような言葉。
焦り・前向き・断定など、状況に応じてポジティブにもネガティブにも使えます。
「とにもかくにも」とは?──気持ちを整えて前に進む言葉
「とにもかくにも」は、「とにかく」と似ていますが、語調が少し古風で、気持ちの整理や区切りをつけるときに使う表現です。
意味は「いずれにしても」「ともかく」とほぼ同じですが、話し手の“感情の余韻”が含まれる点でニュアンスが異なります。
🔹 コアイメージ
「とにもかくにも」は、状況がどうであれ「まずはこれで一区切り」と気持ちをまとめる語。
「とにかく」が勢いで押す言葉なのに対し、「とにもかくにも」は一呼吸おいて話を進める印象です。
たとえば——
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「とにもかくにも、無事に終わってよかった」
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「とにもかくにも、これで一安心だね」
 - 
「とにもかくにも、彼に会えたのは嬉しい」
 
いずれも“状況を受け入れたうえで安堵する・まとめる”ニュアンスがあります。
🔹 由来
「とにもかくにも」は、「とにも(何にしても)」+「かくにも(こうにも)」の組み合わせ。
平安時代から文献に登場する古い言葉で、
「何にしてもこうにしても」=「いずれにしても」という意味から派生しました。
💬 使われ方の特徴
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書き言葉・スピーチ・ナレーションなどで使われやすい
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「とにかく」よりも柔らかく、感情をまとめる効果がある
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文章では余韻や品格を出したいときに便利
 
👉 「とにもかくにも」は、気持ちを落ち着かせて次に進むときの言葉。
少し客観的で、やや“余裕のある語感”が魅力です。
使い分けのコツ
どちらも「まず」「いずれにしても」という意味を持ちますが、
“言葉のテンション”と“文体のトーン”に明確な違いがあります。

🔹 行動を促すのは「とにかく」
「とにかく」は、行動・判断・決意など“次の一手”を促すときに自然です。
たとえば、
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「とにかくやってみよう!」
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「とにかく謝っておこう」
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「とにかく急ごう!」
 
勢いや判断力を感じさせるフレーズで、話し手の前向きな意思や焦りを強調します。
ビジネスでも「とにかく対応します」「とにかく確認します」と言えば、“スピード感のある姿勢”を伝えられます。
🔹 状況を整理するときは「とにもかくにも」
一方、「とにもかくにも」は、何かがひと段落したときや、気持ちを落ち着けたい場面に使われます。
たとえば、
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「とにもかくにも、終わってよかった」
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「とにもかくにも、健康が一番だね」
 - 
「とにもかくにも、今は静観するしかない」
 
焦りよりも安堵・受容・まとめのニュアンスが強く、
会話や文章で“柔らかく締めたい”ときに適しています。
🔹 フォーマル度・文体の違い
| 項目 | とにかく | とにもかくにも | 
|---|---|---|
| 感情の向き | 行動・勢い | まとめ・安堵 | 
| 文体 | 口語的・カジュアル | 書き言葉・ややフォーマル | 
| 使用シーン | 会話・指示・ビジネス | スピーチ・コラム・ナレーション | 
| 印象 | 即断・力強い | 冷静・落ち着いた | 
👉 まとめると、
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「とにかく」は“進むための言葉”
 - 
「とにもかくにも」は“受け止めるための言葉”
 
感情の方向が真逆なのが、この2語の一番の違いです。
誤った使い方に注意
「とにかく」と「とにもかくにも」は意味が近いため、
無意識に置き換えても通じることが多いですが、文脈のテンションが合っていないと違和感が生じます。
✖ 誤用例と ✔ 正しい使い方
✖ とにもかくにも頑張ろう!
→ 「とにもかくにも」はまとめの言葉なので、これから行動する場面には不自然。
✔ とにかく頑張ろう! が自然です。
✖ とにかく、無事に終わってよかった
→ 「とにかく」は勢いが強すぎて、安堵の文脈ではややトーンがずれる。
✔ とにもかくにも、無事に終わってよかった が適切。
✖ とにもかくにも、まず説明します
→ “まず”という順序を表す語と重なり、ややくどい。
✔ とにかく、説明します の方がテンポが良い。
🔹 文のリズムにも影響する
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「とにかく」はテンポが速く、勢いをつけたいときに向く。
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「とにもかくにも」は語数が多く、文を少し落ち着かせたいときに効果的。
 
たとえばスピーチや文章の締めに使うと、
「とにもかくにも〜」は語感のリズムで“まとめ感”を演出できます。
👉 言い換えの目安:
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行動・指示 → 「とにかく」
 - 
結果・まとめ → 「とにもかくにも」
 
まとめ ── 勢いの「とにかく」、余韻の「とにもかくにも」
似ているようで、心のテンションがまったく異なる2つの言葉。
使い分けのコツは、“前に進む”のか、“一区切りつける”のかにあります。
✅ まとめポイント
- 
とにかく:勢い・行動・決意
→ 「まずやってみる」「考えるより動く」
例:「とにかく急げ!」「とにかく行動することが大事」 - 
とにもかくにも:安堵・整理・まとめ
→ 「何はともあれ」「ひとまず落ち着いて」
例:「とにもかくにも、無事でよかった」「とにもかくにも、終わりが見えた」 
💡 ワンポイント
「とにかく」は前へ押し出すエネルギー、
「とにもかくにも」は気持ちを受け止めるクッション。
つまり、
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走り出すときには「とにかく」
 - 
立ち止まるときには「とにもかくにも」
 
この使い分けを意識するだけで、文章も会話も自然で豊かになります。
  
  
  
  