「言葉を消す」ことの難しさ
政治家の記者会見や公的なニュースで、いとも簡単に「不適切な発言を撤回します」という言葉が流れます。
それを見るたびに、どこか割り切れない「モヤモヤ」を感じる方は多いはずです。
辞書を開けば、この二つの言葉には明確な違いがあります。
しかし、対人関係において、果たして私たちは本当に「なかったこと」にできるのでしょうか。
「取り消し」――過去に遡る、強い言葉
「取り消し」は、法律やルールの世界では「過去に遡って、最初から無効にする」という強力な行為です。
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特徴: 遡及(そきゅう)して無効にする。
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例: 予約の取り消し、免許の取り消し。
もし「予約を取り消し」にすれば、システム上はその予約自体が最初から存在しなかったことになります。
しかし、家族の間で一度約束したことを「取り消しだ」と言われたらどうでしょう。
「最初からなかったこと」と言われて納得できるほど、人の心はデジタルではありませんよね。
「撤回」――今から止める、潔さの不在
一方の「撤回」は、「これまでの事実は認めるけれど、ここから先は取り下げる」という行為です。
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特徴: 将来に向かって無効にする。
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例: 前言の撤回、内定の撤回。
ニュースでよく見る「発言を撤回します」は、厳密には「言った事実は認めるが、その意見を今は取り下げる」という意味です。

公人が簡単にこの言葉を使うとき、そこには「言ったことへの責任」よりも「その場を収めるための手続き」というニュアンスが透けて見えてしまいます。
それが、私たちの感じるモヤモヤの正体なのかもしれません。
言葉を動かす前に、まず「謝る」ということ
「取り消し」や「撤回」という手続きに入る前に、私たちは忘れてはならないステップがあります。
それは「間違いを認め、謝罪する」ことだと思います。
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「さっきの言葉は間違いだった。傷つけてごめん。取り消させてほしい」
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「一度決めたことだけれど、事情が変わった。申し訳ないが撤回させてくれないか」
この「ごめん」という一言があって初めて、言葉は本当の意味で「なかったこと」への第一歩を踏み出せます。
夫婦間や親子間であればなおさら、言葉選びの慎重さは相手への敬意そのものです。
まとめ:言葉の「傷跡」を忘れない
還暦を過ぎ、人生の「デフォルト設定」を整え直している今思うのは、放たれた言葉は「一度放たれた矢」と同じだということです。
たとえ後から矢を抜いた(撤回した)としても、そこには必ず傷跡が残ります。
「取り消し」や「撤回」を簡単に選ぶのではなく、そもそもその言葉を放つべきかどうか。もし間違えたなら、どう誠実に向き合うか。 そんな「言葉との丁寧な付き合い」こそが、大人の、そして公人のあるべき姿ではないでしょうか。
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