本記事では、「許す」と「見逃す」の違いを詳しく解説します。
どちらも「相手の過ちをとがめない」という点では似ていますが、
実は心の動きと判断の深さがまったく異なります。
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「許す」… 感情的に相手を受け入れ、和解すること。
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「見逃す」… 理性的に咎めず、処罰を避けること。
たとえば、
友人に裏切られたとき「もう許す」と言えば心の解放を意味しますが、
上司が部下に「今回は見逃す」と言えば、立場や判断に基づく決定になります。
つまり「許す」は感情の整理、
「見逃す」は状況判断の言葉。
その違いを理解すると、人との関わり方や伝え方に深みが生まれます。
「許す」とは?
意味
「許す」とは、相手の過ち・失敗・罪などを受け入れて、不問にすること。
怒りや悲しみを乗り越え、心の中で和解する行為を指します。
語源は「赦す(ゆるす)」にも通じ、古くは「罪をゆるす」「許可する」という意味で使われていました。
現代では、「心の寛容さ」や「情の深さ」を表す言葉として定着しています。
ニュアンスの特徴
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感情の動きが中心。
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相手への理解・思いやりを含む。
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過去の出来事を受け入れる心理的な強さを示す。
👉「許す」は、相手のために見えるけれど、最終的には自分の心を軽くするための行為でもあります。
例文
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「裏切られたけれど、最終的には彼を許せた」
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「子どもの失敗を笑って許す」
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「時間が経って、ようやく自分を許せた」
👉「許す」は“心の整理”に寄った言葉であり、
“怒りを手放す強さ”を伴うのがポイントです。
「見逃す」とは?
意味
「見逃す」とは、本来なら注意・処罰・指摘すべきことを、あえて取り上げずに済ませること。
つまり、感情よりも判断や立場に基づく選択です。
語源的には「見(み)」+「逃す(のがす)」で、
“見ていながら追及しない”という冷静な行為を表します。
ニュアンスの特徴
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理性的で、感情を抑えた判断。
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相手の立場や状況を考慮した“決定”。
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一時的な措置や現実的な妥協の意味合いも含む。
👉「見逃す」はその場の状況を丸ごと受け流す行為であり、
“心で許す”というより“行動としてとがめない”ことを示します。
例文
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「今回は初犯だから見逃しておく」
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「上司は私のミスを見逃してくれた」
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「チャンスを見逃す」→この場合は“気づかず逃す”という別の意味。
比較してみると
| 視点 | 許す | 見逃す |
|---|---|---|
| 行為の本質 | 心の和解・感情の解放 | 判断・行動の選択 |
| 感情の温度 | あたたかい・包み込む | 冷静・距離を取る |
| 主体の意識 | 感情中心(思いやり) | 理性中心(判断) |
| 関係性 | 対等・個人的 | 上下・立場的 |
| 使われ方 | 人間関係・感情表現 | ビジネス・状況判断 |

たとえば同じ「過ちをとがめない」でも、
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「彼を許した」→ 心の中で受け入れた。
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「彼を見逃した」→ 処罰せずに済ませた。
👉 許す=心の結論、見逃す=行動の選択。
誤った使い方に注意
「許す」と「見逃す」はどちらも“とがめない”という結果を持ちますが、
感情と判断のどちらに軸を置くかで意味が大きく変わります。
そのため、使い方を誤ると「冷たく感じる」「上から目線に聞こえる」など、印象のズレが生じやすい言葉です。
✖ よくある誤用例
① 「今回はあなたを許しておく」
→ 一見正しそうですが、日常会話では少し上からの言い方に聞こえます。
“寛大な自分”を強調するような響きがあり、対等な関係では不自然です。
✔ 自然な言い方:「今回は見逃す」「今回は気にしないでおくよ」
② 「見逃してあげる」
→ 子どもや部下など、上下関係を含んだ場面では使えますが、
友人・恋人など対等な関係では“支配的な響き”になります。
✔ 心情を表すなら:「もう許す」「気にしてないよ」
③ 「許す」と「見逃す」を混同した例
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✖ 「彼の嘘を見逃せた」→ 感情的な出来事には不自然。
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✔ 「彼の嘘を許せた」→ 心情的な整理を表すので自然。
逆に、
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✖ 「規則違反を許す」→ 私情が入りすぎ。
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✔ 「規則違反を見逃す」→ 管理的・判断的な表現として正しい。
👉 感情の場面では「許す」、制度や判断の場面では「見逃す」。
それぞれの言葉が持つ“温度差”を意識すると誤用を防げます。
類語との比較
| 表現 | ニュアンス | 使用場面・特徴 |
|---|---|---|
| 赦す(ゆるす) | 「許す」と同源。宗教的・道徳的な重み。 | 「罪を赦す」「神に赦される」など厳粛な文体。 |
| 容認する | 反対しない・受け入れる。感情を伴わない。 | 政策・判断などの公的表現。「提案を容認する」。 |
| 黙認する | 気づいていながら止めない。消極的な許容。 | 「不正を黙認する」など、やや否定的な語感。 |
| 大目に見る | 小さな失敗を見過ごす。柔らかく日常的。 | 「遅刻くらい大目に見てよ」。軽い印象。 |
| 寛大にする | 立場的に余裕を持って対応する。上位者の語。 | 「寛大な処置を取る」。ビジネス・法的文脈でも使用。 |
💡 まとめると
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許す/赦す … 感情・精神的な受け入れ。
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見逃す/大目に見る … 判断・行動の選択。
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容認する/黙認する … 公的・社会的な場面での許容。
👉 「許す」は“心の中の和解”、
「見逃す」は“現実的な判断”。
一方で「容認」「黙認」は“立場としての許容”。
同じ“受け入れ”でも、感情・立場・状況のどこを重視するかで使う言葉が変わります。
まとめ
「許す」と「見逃す」はどちらも“相手の過ちをとがめない”という結果を持ちながら、
そこに至るプロセスと感情の温度が異なります。
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許す:心の痛みを受け入れ、感情的に和解する行為。
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見逃す:冷静に判断し、処罰を保留する行為。
どちらも“優しさ”を含んだ言葉ですが、
「許す」は心の成熟、「見逃す」は理性的な余裕を表します。
